回収戦車・戦車回収車、要するにARV(Armoured Recovery Vehicle)というのは、前線で故障、被弾して自走不可となった主力戦車・MBTを回収するために作られる装甲車・戦車です。主力戦車・MBTが行けるところにはどこでも行けないといけませんので、MBTと同等の機動力が必要となります。一般的にはMBTの武装を取り外し、クレーンやウィンチなどの改修用装備を追加して改造したものが多いようです。
陸自では61式戦車を改造した70式戦車回収車、74式戦車を改造した78式戦車回収車、90式戦車を改造した90式戦車回収車と教科書通りにMBT改造の回収戦車を装備しています。モノが豊富な米陸軍は意外にもいまだにM48改修のM88を装備し、イラクでも使っていますからその辺は文化というものなのでしょうか。バグダッドでフセイン像を引き倒していたのもM88でした。
第二次大戦のドイツ軍においては、非常に強固な装甲を持ち撃破されにくいにもかかわらず複雑で巨大すぎるが故に故障しやすかった、ティーガーI/ティーガーIIのような重戦車を運用していましたから、回収には大変力を入れていたようです。
宮さんの戦車漫画などでもドイツ軍整備兵の努力については語られていますが、壊れても撃破されても非常な努力で可能な限り前線から車両を回収し、こつこつと直し何度も出撃を繰り返すことも多かったようです。したがって回収戦車についても非常に凝ったものを装備していました。有名なものとしてはティーガーの車体を使ったベルゲ・ティーガー、パンターの車体を使ったベルゲ・パンター等というものがありました。数が少なく貴重なティーガーを回収戦車に改修するというのは、実にぜいたくにも思えますが、故障、被弾車両を回収して戦力を維持するためというドイツ人の合理性と、やはりあの生来の凝り性のなせる技なのでしょうか。
私が回収戦車について興味を持ったのは、押井守氏の「西武新宿線戦異常なし」の主人公が駆るM32回収戦車の活躍からだったように思います。M32はM4シャーマンを改修したARVですけれども、この回収戦車で「あるもの」を回収するために戦場を駆け抜けるというストーリーは「回収戦車」というものを知らなかった当時のわたしには大変新鮮でした。クレーンの動力が起動輪の巻き上げを利用していたり、主砲が破砕砲(デモリッションガン)であったりとたいへん勉強になりました。
また大日本絵画のオムニバスコミック「タンク・ザ・ヒーロー」には第4次中東戦争時のM50スーパーシャーマンの修理のためにM4ベースの共通車体を持つM32から部品をかっぱらうという「10月の老兵(高貫布士案・サトウユウ画)」という短編が掲載されています。中東戦争も物資不足の戦場ですから、回収戦車や戦闘工兵はさぞや活躍したことでしょう。余談ですが、IDFのM4魔改造はそれだけで一冊の本になるほど多彩ですが、第二次中東戦争ではエジプト軍のAMX-13の砲塔を装備したM4と交戦したりもしていますから、こうなるともうわけがわからないですよね。IV号戦車やT34やM4が砂漠を駆け抜ける中東の戦車戦については、今後も勉強したい重要なテーマです。
更に漫画の話ですが、永野護氏の「ファイブ・スター・ストーリーズ」においては、モーターヘッド・サイレン改修のベルゲ・サイレン、ミラージュ改修のベルゲ・ミラージュなどが登場します。ドイツ軍のベルゲ・パンツァーからのインスパイアでしょうけれど、巨大戦闘ロボットものに回収用ロボットを設定するというナイスな着眼はモデラーでもある氏の面目躍如といったところでしょうか。
アニメでロボットと言えばガンダム。ガンダムにも回収用モビルスーツが存在します。「第08MS小隊」のオープニングでは、一瞬ですが擱座した陸戦型ガンダムを回収する回収用ガンタンクの雄姿が描かれています。ウィンチとワイヤーでガンダムを回収していますが、あの後ぐったりした陸戦型ガンダムが回収用ガンタンクに背負われて後方まで下がるところ、というのは、絵にするとずいぶんシュールなものになるのじゃないかとわくわくします。誰か描いてくんないでしょうか。
制作途中で体調不調のため降板された神田武幸氏の趣味だったと思うのですが、このようなミリタリーテイストあふれる「08小隊」も見たかったです。オープニングの「砲撃の瞬間、両耳をふさいで口を開ける」なんていう、誰も気がつかない細かい描写を見るたびに、ガンダムで「コンバット」をやりたかった、という神田氏が最期まで描ききった「08小隊」というのも夢想してしまいます。
ということで、最期はアニメの話になってしまいましたが、回収戦車の話でした。
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お題目は立派なんですけど、ダメージコントロールもなんも、良く読んでみると「戦略はお題目だけですから、現場レベルの戦法で頑張ってね」
ちゅうことみたいです。
旧軍からの伝統はここにも生きておりますの〜┐(-。ー;)┌
広報センターにおいでよぉ。
関越から近いしさ。
指揮官無能で、下士官兵優秀というのは、昔からの伝統ですね。
糧は敵に依る、とかすげードクトリン連発です。
>スフィア様
そうか。78式灰泥回収戦車もいそうですね。
いきたいなー。