現在よりちょっぴり進んでいて、ちょっぴりディストピアな近未来の話。
スーパーコンピュータが現在よりも発達している世界で、天気予報が外れます。巨大な台風がシミュレーションと異なる進路をとり、大きな被害をもたらすシーンから始まって...
南洋に浮かぶ「ムルデカ」のイメージがいいです。劇場版パトレーバーの「方舟」、とか、「JSP-03」(佐藤大輔「遥かなる星」)みたいな海洋巨大構造物はちょっとでかすぎなくらいの巨大なイメージがなかなかよいです。それにしてもムルデカってのはインドネシア語で「独立」なんだそうですが、意味深だねぇ。
その「ムルデカ」とスーパーコンピュータに、優生学的な差別観バリバリの宗教団体である「ユーレカ」がからんでくるのですが...
林譲治というと、ずーっとB級仮想戦記作家のイメージがあって、手に取る気がおきませんでした。「ウロボロスの波動」でちょっと見直したところがあって、本書もその流れで手に取った次第。
エピソードは魅力的ですし、最後のどんでん返しもなかなか巧妙。死体がごろごろ出てくるあたり、カリオストロ城地下のようでドキドキ具合もいいです。
優生学的優越を看板にした全体主義的宗教団体というと、60年前のアレが印象に強すぎるわけですが、たとえばスタートレックの「カーン」を始めとして(それが始めかよ)、なぜこうも私の中に不愉快な感情を呼び起こすのか、その根源はいつか適切に分析してやらにゃあな、と思ってしまいます。とにかくユーレカ、不愉快。
そういや、山本弘の「神は沈黙せず」でも取り上げられていましたが、コンピュータとネットワークによる直接民主主義ってモチーフがちらりと顔を出します。これって流行りもんなのか。
星良さん(笑)が「足は飾りじゃないのよ」と言ってみたり、登場人物が全部帝国海軍の軍艦名だったりというのは、ちょっとした遊びなんだろうけれど、私にはイメージが固定されてよくなかったです。あなたならできるわとかあの声で脳内再生されちゃったし、
船の名前の流用はもうエヴァ以来食傷ぎみなんだってば。登場人物の名前を考えるのも大切な作家の仕事だぜ。
話の構成として、JAMSTEC横浜、老人福祉、ムルデカ方面のエピソードを交互に描いていますが、その中に個人的な人間関係も織り込んであったりして、少々関連が複雑にすぎるのではないかと思います。どれが誰やら混乱する場もありました。どっちかというとそれぞれ関係を持たないエピソードが最終段階で一つに収斂していく構成の方が読みやすかったのでは。それにしてもどこでもここでも活躍しているのは全部女性だな。
全体的にみるとエピソードの量ももう少し刈り込んだ方がよいのかも知れません。
最後の方が大石英司並みのドンパチに堕してしまうところもちょっと残念。
最近読んだ中では平均点ちょっとプラスというところで。