「クジラ」という生き物は、巨体もさることながらその知性の存在への可能性から、昔から多くのSFで取り上げられています。銀河ネットワークで歌を歌っちゃったり、ネモ船長の友達だったり。捕まえてくっちまう日本人が言うのもなんですが、もしかしたら本当に知性的な存在なのかもしれないなぁと思わせる神秘性はありますよね。
原子力潜水艦の乗員が、潜水航行中に次々と変死する事件が起きて...という導入部分は結構いいです。
でもやっぱしエイハブ船長役(?)の艦長とか、のんだくれのアウトロー博士とか、心に傷を抱いた潜水艇パイロットとか、AIに改造されちゃったイルカとか、掘り下げがもう一つで、どこかしら他所から持ってきた感が否めないです。いっそ谷甲州あたりに書かせると...あ、やっぱおんなじになっちゃうか。全盛期の小松左京ならこの導入部からすごい着地点に行きそうだけど。
まあ突然クジラがテレパシーで話しかけてきたり、「実は宇宙から来たのだ」などと言いだされても困っちゃいますが、その辺はSF作家のばかぢから(笑)で驚愕の結末が欲しかったような気がします。知性の有無なんかも結局よくわかんないまま終わっちゃいますし、「科学的な事件の落とし所」としては正しいんだろうけれど、なにかこう振りあげたこぶしのやり場に困る感じです。
藤崎慎吾、「蛍女」「クリスタル・サイレンス」「ハイドゥナン」と、時々目を通すようにはしているんですが、どうもぱっとしない。引っ掛かりなく、するすると結末まで行っちゃう感じです。
誰かが「ものすごくまじめで、健全な作品を健康的に書く人」と評していたように思いますが、確かにごもっともです。「ウッフンという関係((C)豊田有恒)」なんかはどこにもないし。
まあそれにしちゃ何故か「ストーンエイジCOP」だけはひたすら気持ち悪かったわけですけど(笑)。
一番よかったのは今のところ「ハイドゥナン」かなぁ。
この「鯨の王」も安心して読める感はありますが、傑作とはいいがたいかも。もうひとひねりほしいなぁ。SFとしちゃ本当にまじめなんですけどねぇ。
潜水艦戦闘ものとしては、久々で楽しかったように思います。バッフルクリアとかスプリントアンドドリフト(は、やってないか)なんて久しぶりー。でも超音速の魚雷はちょっとアレ。